『テザ 慟哭の大地』はエチオピア出身の映画監督ハイレ・ゲリマの最新作(2008年)。2008年のヴェネチア映画祭の審査員特別賞や脚本賞を受賞したほか、ロッテルダム映画祭のDioraphte賞や全アフリカ映画祭グランプリとか、いろいろ受賞した映画だ。その『テザ』を先日試写で見た。見て、大きな刺激を受けた。面白かったし、圧倒されたし、個人的にもびっくりした(後で書くけど・・・)。

ゲリマはヨーロッパでは有名な映画監督だけど、日本では知られていない。今度の映画が初の劇場公開作品だそうだ。これまでに日本では唯一、1984年の「国際交流基金アフリカ映画祭」で上映されたのが『三千年の収穫』(1976)で、この作品でハイレ・ゲリマ監督は世界的な映画作家となった。『テザ』は6月にシアター・イメージフォーラムで公開されるそうだ。

『テザ 慟哭の大地』の内容を説明するのはとても難しい。テザの主人公は故国エチオピアからドイツに留学して医学を学んでいたが、故郷に帰ってくる。少年時代の村での暮らしの記憶やドイツでの差別の体験の記憶が主人公の内面で複雑に(映像的に)交錯する。そこに1970年代以降のエチオピアの現代史がフラッシュバック的に絡み、深い情緒に満ちたシーンと激しい暴力的な映像がいっぺんに押し寄せてくるような映画だ。

「テザ」とはエチオピアの言語であるアムハリ語で「朝露」と「幼年期」の二つの意味を持つことばだという。「朝露」と「幼年期」がおなじことばというのが、何かスゴイ。この映画は朝露と幼年期に関する映画だといわれれば、そうか・・・という気分になる。詩のような映画でもあり、エチオピア現代史のドキュメンタリー映画のようでもある。

舞台となる主人公の故郷の村は(たぶん)エチオピア北西部のタナ湖のそばの農村のようだ。映画には大きな湖が重要な舞台として出てくる。また、ゲリマ監督はゴンだールの出身だというから、そのあたりが映画の舞台だというのはあり得る。タナ湖からゴンダールまでは100キロもない。

そして、個人的な関心でいえば、ぼくはタナ湖の周辺の農村、つまりこの映画の舞台となったあたりに行ったことがある。しかも、そこに10日ほど居たのが1974年の1月だから、この映画が描いている時期と重なっている。ハイレ・セラシェ皇帝の廃位が1974年9月だから、ぼくがエチオピアの田舎に居た時期は実は激動期だったのだ。田舎ではもちろん、首都アジスアベバに居てもそんなことは判らなかったけど。日本に帰ってきてからびっくりしたのを覚えている。・・・それで、この映画にはますます関心を持たざるを得なくなった。映画の中の風景はたしかに「見たことがある」。

以下に並べたのはその時、タナ湖近くの村で撮影した写真だ。30年以上前のネガだから、色のバランスがくずれているが、雰囲気は判る。