8月
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Posted on 30-08-2013
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掲載した写真は2013年8月20日の朝日新聞夕刊の紙面だ。90年前の関東大震災の時、たぶん9月1日の午後、地震発生からそんなに時間の経っていない頃に撮影された写真が大きく掲載されている。

これは9月1日の地震直後に皇居前広場に避難した被災者を撮影した写真だが、当時の報知新聞が馬場先門の北側から南西方向に向けて、角度を変えて写した3枚の写真をつなげたパノラマ写真だ。皇居前広場には30万人が避難したといわれているが、この写真でもわかるように人の群れはもとより、家具や布団などを積んだ大八車や人力車と荷物で埋め尽くされている。

実はこれは墨田区の両国国技館近くの東京都慰霊堂の併設された復興記念館に展示された写真パネルを紹介した記事である。それによれば、展示されたパネルは縦1.2メートル、横4.6メートルという巨大なものだという。

復興記念館は旧被服廠跡地にあり、震災の時、僅かの間に火災旋風に襲われて4万人近い人が焼け死んだ場所である。そこに慰霊堂と記念館が建てられた。東京の下町ではその後、東京大空襲でも多くに人が死んだ。慰霊堂と記念館は、大正と昭和の二つの大惨事の死者を悼み、後世に伝えるものだ。

その巨大な写真パネルを見に行った。これだけ大きければ、写真に写っている人びとの表情が分るだろうと思ったのだ。

新聞の紙面では分らないが、パネルは特別な迫力に満ちていた。つなぎ合わせて合成した3枚の写真のうち左右の2枚はオリジナルのプリントが残されていたが、真ん中の1枚はプリントは失われ、当時の印刷物からの複製だという。確かに、真ん中3分の1には印刷の網目が見える。だが、そんなことが気にならないほど、写っている人びとの姿や表情が鮮明に分るのだ。

まず、人と荷物を積んだ車の多さに驚く。ここではみんな無事だったが、東京中がこのような状態だったという。この荷物が至る所で燃え出し、多くの犠牲者を出すきっかけになった。人より荷物の方が多いのでは、と勘違いしそうになる。

ブリューゲルの絵にたくさんの庶民や村人の群像を描いたものがあるが、この写真全体に、あの雰囲気を思い切り拡大したような印象がある。

そして、なによりも、人びとの表情が実に落ち着いて、安心しきった感じなのに驚かされる。人びとは何をこんなに安心しているのだろう。ここまで避難すれば、もう大丈夫とでも思っているのだろうか。表情だけではない。彼らの仕草や身体の格好にまで、安堵や安らぎが感じられるのだ。不思議な感じがする。

それとも、人は最悪の事態に直面すると、このような冷静な態度をとり、穏やかな表情を浮かべるものなのか。

パネルを長く見つめていて、不思議な感じを拭うことができなかった。